昭和11年築の店舗併用古民家です。現在は包丁や刀を扱っている刃物屋ですが、当初は別のお店だったようです。道路側の1階がお店で、その奥と2階が住居です。外装と住居内部のリフォームを行いました。商店街のランドマーク的存在なので、できるだけ印象を変えないように、老朽化した部材や塗装を新しくしました。
まず調査してみると、店は間口がすべてガラスの開口部で、地震の横揺れに弱い構造になっていました。そこで筋交いを入れて横揺れに対して踏ん張れる補強を提案しました。しかしそのためには工事中は店を休まなければならないし、また筋交いが入ることで店内のデザインに影響が出ます。店の中をいじらないで耐震性を持たせることができないかという要望に対して、外部から鉄骨で補強するアイデアを検討しました。
外壁に沿って何本かの鉄骨の柱を立て、それらを横につないで立方体フレームにしました。写真をよく見てもらうと屋根の上に水平の部材が浮かんでいるのが分かります。H鋼の梁です。それが建物の左右でH鋼の柱につながっていて、門型のフレームになっています。それはまた後ろにもつながっていて建物を囲みながら、木造の柱、胴差、梁にボルトで留めつけられていて、ギプスのようにがっちりと補強しているのです。細いH鋼なので地震時には木造建物と合わせて揺れながら骨組みを保持し、2階が落ちてくるような倒壊は避けられるはずです。
鉄骨の表面はリン酸処理という黒っぽいメッキで色づけされているため目立ちません。また屋根の上の鉄骨には杉板をはめ込んで着色しているので屋根に同化しています。隣家との隙間が狭いのですが15㎝の出っ張りで納まったので裏への行き来が妨げられずにすみました。
外壁の古い鉄板をはがし、断熱材を入れながら、鉄骨のフレームと既存の木造の柱や梁をボルトで留めています。さらに構造用合板で壁を補強しています。
また、これまでは土壁にトタンが張ってあっただけで断熱材が入っていなかったので寒かったはずです。25ミリ厚のスタイロフォームを2重に入れました。屋根裏には10センチ厚のグラスウールを2重に入れました。
内部は間取りはそのままに、ビニルクロスの壁をしっくい塗りにし、暗かったキッチンの天井に明かり取りのトップライトをつけました。
古くなっていた水回りの改修としてタカラスタンダード社のキッチンセット、ユニットバス、洗面カウンターを入れました。 注文製作するよりもコストパフォーマンスを重視し、タカラの総ホーローづくりの製品を選びました。化粧パネルから内部の裏張りまですべてホーローびきなので、化学物質アレルギーの人にも安心して使ってもらえます。
小屋裏は使われていなかったのですが、 床と天井を張ってロフトにしました。大人が立ち上がるだけの高さはありませんが、子どもの遊び場にはなりそうです。窓からは商店街の屋根並みが見えます。窓は家中のサッシのガラスをすべてペアガラスに入れ替えたので、断熱材の効果と相まって、住みやすい家になりました。